
文責 黒沼凱夫
はじめに
ヨーロッパでは、毎年9月22日にカーフリーデー(「街ではマイカーを使わない」)という都市交通イベントが行われている。この日、街の中心部では、マイカーを使う代わりに公共交通機関・徒歩・自転車などによって人々は移動し、都市の交通・環境問題について考える一日になっている。
また9月16-22日の一週間は、日により自転車の日、公共交通の日などテーマを設定して諸活動を進めるモビリティウィーク(都市交通週間)というイベントも行われる。
このモビリティウィーとカーフリーデーに合わせて、松本市ノーマイカーデー推進市民会議の有志による視察団の一員として、ジュネーブ(スイス)、フライブルク(ドイツ)、ストラスブール(フランス)へ視察に行ってきた。
わずか1週間の駆け足視察であったが、ヨーロッパの都市交通の実態を直接目で見て肌で感じ、またわずかながらも現地の人の話を直接聞くことができたことは、非常に有益な体験であった。今後の市民会議の取り組みにとって大変参考になるものと思っている。
以下にジュネーブのモビリティウィークとカーフリーデーについて報告する。
ジュネーブのモビリティウィークとカーフリーデー
9月22日(木)。ヨーロッパカーフリーデー日本担当ナショナルコーディネーターの望月真一氏の案内で、朝8時半からジュネーブのカーフリーデーの実施状況を見て回った。
ジュネーブは、人口約18万人で、国際連合ヨーロッパ本部、国際赤十字委員会本部を始
め、数々の国際機関が集まるスイス随一の国際都市である。
モビリティウィークとカーフリーデーの正式参加都市であり、とくにカーフリーデーは、
フランスで広がりだした1998年から参加しており、8回目のチャレンジである。
〈独自のスローガンとシンボルマーク〉
今年のヨーロッパ・モビリティウィークのスローガンは、「Clever Commuting:環境にやさしい賢い通勤・通学」だったが、ジュネーブでは、フランスの環境省が新しく提起した「Bougez Autrement!:これまでと異なる交通行動を」を採用し、独自の都市環境を意識したアピール活動を行っていた。「La meilleure _nergie, c_est la votre!:最良のエネルギー、それはあなたのエネルギーだ」という言葉がスローガンに添えられていた。そして、「歩くこと」を強調した靴あとのシンボルマークが印象的だった(図1)。

「ジュネーブのモビリティウィーク&カーフリーデーのポスター」(図1)
〈移動方法の多様化〉
ではなぜ「Bougez Autrement!」か。二つの問題が挙げられている。一つは、ジュネーブ州の運輸交通局の予測によると、ジュネーブ市の交通需要は2020年までに 40%増加するという問題である。自動車の禁止によってこの増加を抑えようとしたり、あるいは公共交通によって増加分を吸収できると考えるのは、あまり現実的でない。より簡単で効果的な対策がある。それは「組み合わせによる移動」(mobilitmbil)、すなわち「移動方法の多様化」(multimodail)だ。マイカーだけでなく、歩行、自転車、バス、トラム、鉄道、湖を渡る船、カーシェアリング、自動車の相乗り利用など、多様な移動手段・方法が現に機能している当地ならではの提案に思えた。
〈体を動かそう〉
もう一つは、健康の問題だ。市の統計によると、ジュネーブの成人男性の41%、成人女性の21%は体重過多であり、肥満症の人はそれぞれ11%と9%という数字が出ている。運動不足は、心臓病、糖尿病、肥満症、骨粗しょう症、ある種の癌などの引き金になる。「健康のために、体を動かすこと(bouger)を忘れないように」と呼びかけているが、これは自動車交通への依存度が高い長野県にも当てはまる問題であると思った。
〈モビリティウィーク&カーフリーデーのプログラム〉
9月16日からのモビリティウィークは、毎日テーマを設定して、それに関する催しを行っていた。非常に盛りだくさんで、興味深い内容のプログラムであったが、私たちが視察できたのは22日だけであった。主なプログラムと会場案内図(図2)を紹介しておく。

「イベント会場案内図」(図2)
・プログラム
16日(金) 「モビリティウィーク&カーフリーデーの開幕式」および 「尊敬、それが社会を変える」(子どもたちの描いた絵をバスやトラムで展示)
17日(土) 「ぶらぶら歩き大デモンストレーション」および
「自転車メッセンジャー・スイス選手権大会」
18日(日) 「湖の市」(市のほかに「徒歩、自転車、トラム、船で市内探訪」など)
19日(月) 「新しい移動方法」(「ローラースケートで20キロゾーン、30キロゾーンを探検」など)
20日(火) 「企業のモビリティ・プラン」(講演と討論)
21日(木) 「運動による健康、遊びによる健康」(遊戯、民俗舞踊など路上での催し)
22日(木) 「歩いて通学しよう・・・ウォーキングバス」および
「街ではマイカーを使わない!」(カーフリーデー)
〈日常化した?カーフリーデー〉
カーフリーデー当日は、市内の公共交通機関(トラム、トロリーバス、バス、そして湖の船)がすべて無料だった。それを確かめに停留所の自動券売機のそばへ行くと、トラムを待っていた市民の一人が「今日はタダだ」と教えてくれた(図3)。

「公共交通無料運行を知らせるシールが自動券売機に貼ってあった」(図3)
駅前にはモビリティウィークの大きな幟が何本も立っていたが、とくに特別な日という感じはしなかった。街は、人も車も普段と変わらない姿で動いているように見えた。

「モビリティウィーク&カーフリーデーの幟 ジュネーブ駅前」
ジュネーブ市内は公共交通インフラが充実していて、一番にぎやかな旧市街の中心部は日ごろからトランジットモール化されている(図4、図5)。

「ジュネーブのトラム」(図4)

「旧市街の目抜き通り」(図5)
走っているのはトラムとバスと自転車。車の通行が排除されていないところでも、20キロゾーンや30キロゾーンなどの規制がある。自転車の走行レーンが道路の中央にあり、自転車が悠々と走っていた。日本では考えられない光景だ(図6)。

「自転車走行レーン 旧市街」(図6)
〈トラムの復活とカーフリーデー〉
ジュネーブでも、1960年代には、モータリゼーションの進行でトラムは次々とバスに取って代わられ、かつては10本あった路線が90 年には1本を残すだけになったと言う。しかし、大気汚染や道路渋滞が深刻化し、環境問題への関心が高まるにつれて、その価値が見直され、今世紀に入ってから大々的に復活し、現在は4路線にまでなっている。
こうした動きは、1998年から7年越しの熱心なカーフリーデーへの取り組み(ヨーロッパでも最大級の予算を確保していると言われる)と決して無関係ではないだろう。カーフリーデーをきっかけにして、年々、歩行者や自転車のための道路が整備され、公共交通網のいっそうの充実が図られているのである。
〈目抜き通りの展示〉
当日のイベントは、メイン会場があって大きなイベントを行うというのではなく、市内の各所で行われていた。中心部の目抜き通りにはいくつものブースが並んで設置され、市の交通課による30キロゾーンの拡大構想の展示や、障害者などのいわゆる交通弱者の移動を支援するボランティアグループ、ペデストリアンや自転車愛好者、カーシェアリングなどの展示が行われていた(図7、図8、図9)。

「市の担当者に聞く」(図7)

「地図中の青色の部分が既存の30キロゾーン 橙色の部分は検討中」(図8)

「モビリティ・カーシェアリング・スイス社の車」(図9)
〈歩いて学校へ・・・ウォーキングバス〉
午後、バスで市内の小学校で行われているイベントを見に行った。学校の回りは車両通交止め(カーフリーエリア)になっていて、路上でワークショップなどの催しが行われいる(図10、図11)。

「学校の回りは車両通交止め」(図10)


「小学校の催し」(図11)
通学方法の見直しがテーマになっていた。フランス語文化圏のジュネーブでは、親の送迎による通学が普通だ。「ママンタクシー」(お母さんタクシー)をやめて「ウォーキングバス」(大人が付き添う徒歩での集団登下校のこと)に切り替えようということである。この日、新しい「ウォーキングバス路線」の開通式が行われたということである(図12)。

「ウォーキングバス」(図12)
〈カフェ討論会〉
再び市の中心部に戻り、小高い丘にある市役所を見学してから、ジュネーブ大学のあるバスティオン公園へ行った。モビリティウィーク&カーフリーデーの中心会場になっていて、インフォメーションセンターが置かれ、無料の自転車貸し出しコーナーもあった。また環境問題の啓発パネルの大掛かりな展示が行われていた(図13、図14、図15)。

「バスがインフォメーションセンター」(図13)

「バスの中」(図14)

「自転車無料貸し出し中」(図15)
20時から同公園のカフェレストランで行われたカフェ討論会に参加した。飲食を愉しみながらのパネルディスカッションだ。予約制だったが、市の担当者の好意で特別参加させてもらった。「視覚障害者と旅」がテーマで、パネリストは盲導犬を連れた目の不自由な人たちだった。モビリティウィーク期間中、日没後の催しとして、この種のカフェ討論会が3回行われている(図16)。

「カフェ討論会」(図16)
〈公共交通と連携したカーシェアリングの普及〉
最後に、スイスの交通事情で特筆すべき事柄として、カーシェアリングの普及に触れておこう。スイスはカーシェアリング発祥の地であるとともに、その先進国でもある。ブースでもらったパンフレットによると、1987年に2台の車と30人の会員でスタートしたのが、いまや1750台の各種車両、1000箇所のステーション、5万人をはるかに越える会員を擁する事業に成長している。
もう一つ、注目すべきは、カーシェアリングと公共交通との連携だ。例えば連邦鉄道やトラムとの共通パスを導入するとともに、駅前などにステーションを確保して、鉄道やトラム、バスとの組み合わせによる普及を進めているのである。公共交通の充実を背景に普及したカーシェアリングにより、さらに公共交通の利用が促進されるという好循環が見込まれているのである(図17)。

「ジュネーブ駅前のステーションに置いてあったモビリティ・カーシェアリング・スイス社の車」(図17)